これまで4回にわたり、UL746Bに基づくRTIおよびその試験方法について説明してきました。 最終回となる今回は、評価を開始する前に行うべき検討事項、準備などについて説明いたします。 十分な検討を行わずに評価を開始すると、本来必要な認証特性と異なる特性を用いて評価してしまったり、評価自体がやり直しとなりかえって時間がかかってしまいます。
1.適用される製品規格、要求されるRTIの特性および厚さの確認
RTIを取得するケースとして、製品メーカー様から材料メーカー様宛に取得のご要望が上がった場合や、材料メーカー様自身が自発的に取得を目指していく場合などがありますが、自社の材料が使用される製品のUL規格がある場合、規格要求を確認する必要があります。 確認する項目は以下です。
① 必要な特性は何か?
② 必要な温度は何度か?
③ 必要最小厚さはどのくらいか?
② 必要な温度は何度か?
③ 必要最小厚さはどのくらいか?
以下はUL2580:EV用バッテリーにおける高分子材料に対する要求の一部です。
UL2580:EV用バッテリー
7.4 使用される高分子材料は、使用される温度に適したものでなければならない。 筐体は、 UL 746B – 長期熱劣化試験に基づいて決定された、機械特性(衝撃あり)の相対温度インデックス (RTI) を持たなければならないが、100℃ 以上である必要がある。
上記の様に用途により要求特性を確認することが出来ます。 必要な温度は対象となる製品の最高使用温度以上ですが、上記の様に規格独自の温度要求が設定されていることもあるので注意が必要です。7.4 使用される高分子材料は、使用される温度に適したものでなければならない。 筐体は、 UL 746B – 長期熱劣化試験に基づいて決定された、機械特性(衝撃あり)の相対温度インデックス (RTI) を持たなければならないが、100℃ 以上である必要がある。
2.コントロールグレードの選定
長期熱劣化試験ではコントロールグレードを用いて評価を行うことを説明いたしました(コントロールに対するULの規格要求は「高分子材料UL技術講座:UL746B ③」を参照願います)。 自社でコントロールグレードに適したUL認定材料が登録されていれば、その中から要求を満たす材料を選定すれば良いのですが、そういったグレードが無い場合、他社の材料をコントロールグレードとして使用することもできます。 ULに登録されている材料を検索する場合、UL Solutionsのホームページ、オンラインリソースから「UL Product iQ」で検索することが出来ます。 絞り込みは上記で説明した、特性、最小厚さおよび温度で絞り込むことが可能です。
3.評価温度の選定(最高エージング温度の確認)
評価温度の選定は非常に重要です。 UL746Bでは原則として以下の要求があります。
・エージング温度の間隔は10℃以上開けなければならい。
・最高エージング温度における寿命は500時間以上であること。
・最低エージング温度における寿命は5000時間以上であること。
・エージングに用いる温度は最低4つの温度が必要。
表-1 エージングの基本的な要求事項を満足している例
エージング温度 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|
200℃ | 190℃ | 180℃ | 170℃ | 160℃ | 150℃ | |
寿命(時間) | ― | 600 | 1500 | 3500 | 6000 | ― |
理想的には事前に各特性、各評価温度で寿命を確認できれば良いのですが、5000時間を超える評価を事前に実施することは困難です。 しかしながら、最高エージング温度に要求される「500時間以上であること」は、1か月程度の事前評価で確認できますので、温度を選定する上で非常に有効です。 事前評価を実施せずにエージングを開始してしまった結果、全ての評価温度で500時間以上となる寿命を得ることが出来なかったケースもあります。
◎UL746Bに基づく長期熱劣化試験解説書
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今後の掲載スケジュール
UL746B 長期熱劣化試験
回数 | タイトル | 掲載予定 |
1回目 | 「RTI(Relative Thermal Index):相対温度インデックスとは?」 | 掲載済 |
2回目 | 「各特性の評価方法」 | 掲載済 |
3回目 | 「RTIの算出方法」 | 掲載済 |
4回目 | 「4温度評価以外の評価方法」 | 掲載済 |
5回目 | 「評価を実施する前の事前準備など」 | 掲載済 |
UL1446 絶縁システムの評価
回数 | タイトル | 掲載予定 |
1回目 | 「Insulation System:絶縁システムとは?」 | 掲載済 |
2回目 | 「コンポーネント(構成材料)について」 | 掲載済 |
3回目 | 「絶縁システムの評価方法」 | 掲載済 |
4回目 | 「コンポーネントに対する注意点」 | 掲載済 |
5回目 | 「評価を実施する前の事前準備など」 | 2025-05 |
お問い合わせ先 担当:堀水 真 TEL:0551-42-5061 FAX:0551-20-6335
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