プラスチック・PWB評価試験

実験シリーズ-ハテナを明かす!! | 絶縁破壊(DS)試験 –電極形状による違い-

はじめに
高分子材料の特性試験は電気特性、機械特性、耐熱特性など様々あります。試験規格では様々な条件が記載されていることもあります。これらの試験条件の違いは試験結果にどのような違いを与えるのでしょうか。 これから様々な試験については実験を行っていきます。今回は絶縁破壊試験を行いました。
絶縁破壊試験とは、絶縁物である試験片を2つの電極に挟み、電極間に電圧を印加し徐々に昇圧した時に試験片の絶縁性が破壊され、電流が流れる時の電圧(絶縁破壊電圧)を求める試験です。様々な試験規格があり、それぞれ条件が異なりますが、ここでは絶縁破壊試験に用いられる電極形状に注目します。 米国試験材料協会(ASTM)や日本のJIS規格では主な電極として右のようなものが記載されています。実際の試験では適用規格と試験片に合わせて電極を選択しますが、電極の形状が変わると試験片に接する面積だけでなく、試験片に広がる電荷の分布が変わりますので、結果に影響を及ぼすと考えられます。今回は柱状電極対2種と球状電極対1種を使用し、同種の試験片に対する結果の比較を行いました。
主な電極の形状 試験規格
φ25mm 円柱 ASTM D149
JIS C2110-1
φ6.4mm 円柱 ASTM D149
JIS C2110-1
φ20mm 球状 JIS C2110-1
JIS K6911
使用電極
① φ25mm R3.2mm 円柱対 ② φ6.4mm R0.8mm 円柱対 ③ φ20mm 球状対
試験条件
周囲媒質:大気中(23℃/50%RH)
昇圧速度:0.5 kV/sec.
試験電圧:交流(60Hz)
試験数量:各n=5
試験片
ガラスクロス入り
Non-ANSI積層板 厚さ 0.38mm
           
試験手順
試験片の厚さを測定したのち、試験片を上の写真のように電極で両側から挟みこむ。
0.5kV/secの昇圧速度で印加し、絶縁が破壊した電圧値(絶縁破壊電圧)を記録する。
絶縁破壊電圧を試験片厚さで除し、絶縁破壊強さを求める。
結果
電極形状 絶縁破壊電圧
( kV )
絶縁破壊強さ
( kV/mm )
①に対する割合
( % )
①φ25mm 円柱 16.8 39.8 100
②φ6.4mm 円柱 18.9 45.3 114
③φ20mm 球状 18.1 43.8 110
結果のまとめ
①のφ25mm柱状電極を100とした場合、②φ6.4mm柱状と③φ20mm球状電極は約10%絶縁破壊強さが高い結果となりました。試験片の厚さは同じため、①は②、③に比べ低い電圧で絶縁破壊した結果となりました。
電極は試験片に面で接しますが、実際の絶縁破壊は微小な1点で起こります。試験片は等質に見えても、実際は表面や内部にボイドや異物を含んでいる場合があります。試験片に電圧が印可されると、これらのボイドや異物において電界集中が発生し、絶縁破壊の起点となります。
①および②の電極は円柱形状であり、試験片接触面の外周はR形状となっているものの、円柱としての角部があるため、エッジ効果により放電しやすくなります。電極径が大きいと、電極外周長も長くなり、試験片のより広い範囲で電圧がかかることになります。その結果、①の電極では広い範囲でボイドなどの欠陥の影響を確認できるため、②の電極より、低い電圧で絶縁破壊したと考えられます。欠陥が少なく、内面分布の状態が均質な場合は電極形状の差による影響が少ないと考えられます。
③はφ20mmの球状電極ですのでエッジ効果による放電はありません。球形状ですので、試験片を挟み込んだ部位が最短距離となり電圧がかかることになりますが、今回の試験では電極接触部ではなく、中心から3mm~4mm程度の範囲で絶縁破壊が発生していました。これは電極接触部よりも、接触部近傍のボイドなどの欠陥がある、より弱い箇所で絶縁破壊が発生したものと考えられます。これよりも外周の部分は電極中心部より大きく離れ、空気の絶縁耐力(およそ3kV/mm)が大きくなるため絶縁破壊は発生しづらくなります。
②のΦ6.4mmの電極を用いた試験の絶縁破壊個所は①と同様に電極外周部分で発生しましたが、絶縁破壊が発生している箇所は③の球状電極を用いた試験の絶縁破壊の範囲と差がありませんでした。②の電極と③の電極を用いた結果が同等となったのは、上記の様に電位がかかる範囲に大きな差が無かったためと考えられます。
球状電極であっても今回の測定で用いた電極よりも直径が大幅に大きい、あるいは小さい場合や、試験片の欠陥の分布状況などにより、測定結果が変わると考えられます。
なお、試験規格によっては任意に電極を選択できる場合もありますが、ASTM D149などでは試験片の材質、試験片のサイズにより選択する電極が決められている規格もありますので試験実施の際は注意が必要です。 

注:上記は今回の評価に用いた試験片より得られた結果であり、異なる材料、条件の場合、結果が異なる場合があります。

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