高電圧条件での新規格 -UL2597表面トラッキング試験-
UL2597に基づく表面トラッキング試験(Surface Tracking Test: STT)は600Vを超える電圧で使用される絶縁材料の耐トラッキング性を評価するための試験規格です。主に高電圧環境で使用される工業用・配電・車載用途などの部品に求められます。
カーボンニュートラル社会の実現に向けて、経済産業省は2035年までにガソリン車の新車販売を終了し、乗用車の新車販売で電気自動車100%を目標としています。電気自動車を普及させるためにはいくつかの課題があり、その一つが充電時間の長さです。急速充電を可能にするため、2020年以降、それまで主流だったバッテリー電圧400Vから800Vシステムへの移行が進んでいます。
こうした高電圧化に伴い、より高い耐トラッキング性をもつ材料が求められましたが、既存のCTI試験(ASTM規格、IEC規格)では最大試験電圧が600Vであり、十分に評価を行うことができませんでした。そのため、ULから高電圧用途(>600V)に対応したUL2597が2025年5月に新たに発行されました。UL2597に基づくSTT試験によって、600〜900Vの範囲での標準化された耐トラッキング性評価が可能となりました。
CTI試験との違い
STT試験の試験方法は装置、溶液等その多くがIEC 60112に準拠しています。
CTI試験(IEC60112)とSTT試験の比較を下表に示します。
試験名 | 比較トラッキング指数試験 (Comparative Tracking Index Test : CTI) |
表面トラッキング試験 (Surface Tracking Test : STT) |
---|---|---|
準拠規格 | IEC60112 (JIS C2134) | UL2597 |
装置 | 同一の試験装置を使用 | |
電解液電導度 | 395±5 Ωcm | |
判定方法 | 滴下数が50滴を超える | |
試験結果 | 5点全て50滴を超える最大電圧 | |
最大試験電圧 | 600V | 900V |
印加電圧間隔 | 25V | 50V |
電極間距離 | 4.0±0.1 mm | 6.0±0.1 mm |
電極の向き | テーパー面が内側(下記参照) | テーパー面が外側(下記参照) |
サンプルサイズ | 20×20 mm以上、厚さ3.0 mm以上 | 最小半径50 mm以上、厚さ3.0±0.3 mm |
CTI試験 | STT試験 | |
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図 電極/試験片の構成 |
電極距離4mm→6mm、電極向き反転の効果
これまでのCTI試験では、600Vを超える電圧を印加すると電極間でエアアークが発生してしまいました(下記参照)。エアアークが発生すると、試験サンプルの表面に電流が流れず、シンチレーションも発生しません。そのため、電圧を上げても逆にサンプルにダメージが入らない状況となり、適切に試験を実施することが出来ませんでした。
STT試験では電極距離が4mmから6mmになり、電極を反転させることによって、600Vを超える電圧を印加してもエアアークの発生を抑えます(下記参照)。これにより、従来の規格範囲を超えた電圧(>600V)での試験が可能になりました。
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図 CTI試験(印加電圧 700V) | 図 STT試験(印加電圧 900V) |
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