最終回となる今回は、絶縁システムの評価を実施する前に検討しなくてはならない項目について説明いたします。 検討する内容は、お客様の立場が材料メーカー様なのか製品メーカー様なのかにより異なります。 それぞれの立場における検討内容について説明いたします。
1.材料メーカー様における確認項目
材料メーカー様が自社システム認証する目的は自社材料の拡販です。 製品メーカー様に自社のシステムがリファレンスシステムとして採用されれば、システムに登録されている自社の材料がEIMとして採用され易くなりますので、いかに製品メーカー様に採用されやすいシステムとするかがポイントとなります。
1-1. 対象となる製品の絞り込み
UL1446が適用される製品は多岐にわたります。 小型スイッチ、トランス、屋外発電機など、使用される環境や動作時の製品温度も全く異なります。 どのような製品をターゲットとするかを決定したら、以下の点について確認します。
① 温度クラス
製品の最高動作温度を確認することにより、絶縁システムの温度クラスが決定されます。 下記表1をご参照ください。
クラス | システムクラス記号 | 温度範囲(℃) |
---|---|---|
105 | A | 105=A |
120 | E | 120≦E<130 |
130 | B | 130≦B<155 |
155 | F | 155≦F<180 |
180 | H | 180≦H<200 |
200 | N | 200≦N<220 |
220 | R | 220≦R<240 |
240 | S | 240=S |
>240 | C | 240<C |
② 登録すべきEIMの選定
温度クラスに適したEIMを選定します。 低い温度クラスではフェノールやエポキシなど、200℃を超えるような高温の温度クラスでは液晶ポリマーなどが使用されるかもしれません。
③ 自社以外のEIMの選定
自社で製造している高分子材料をEIMとして登録するのは前提ですが、それだけで製品を製造できるわけではありません。 自社のコンポーネントが成形材料である場合、それ以外にもアラミド紙やポリイミドフィルムなどのフィルム材が無ければ製品を製造出来ないかもしれません。 せっかく長い時間と高額な費用をかけて取得した絶縁システムであっても、製品メーカー様に採用されなければ意味がありませんので、 製品を製造するために必要な他社の材料もシステムに組み込むことにより、製品メーカー様に採用されやすくなると言えますので、事前に綿密な調査を行い、組み込みやすい材料の詳細を検討しましょう。
1-2. 製造拠点を考慮したコンポーネント選び
現状の製品仕様(温度クラス)や設計(構造)以外にも注意すべき点があります。 それは製品の製造拠点です。 EIMやNIMに限らず、登録されたシステムからコンポーネントを選定する訳ですから、製品の製造が想定される拠点で容易に調達できるコンポーネントを選定する事がポイントです。
1-3. コンポーネントの見直し
リファレンスシステムとして製品メーカー様に使用されるようになれば、製品の拡販としての目的は果たせたと言えます。 ただし、安定して採用され続けるためには登録したコンポーネントの見直しが必要かもしれません。 成形材料、フィルム材料、スリーブ、ワニスなど、様々な材料を用いて、日々、新製品が開発されています。 もちろん、製品メーカー様はこのような新しい材料に関心を寄せています。 定期的なコンポーネントリストの見直しを行って、最新の製品仕様にアップデートしていくことにより、長期にわたり利用できるリファレンスシステムとすることが出来ます。
2.製品メーカー様における確認項目
製品メーカー様にとって重要な点は、「材料メーカー様のリファレンスシステムを上手に利用して、長期熱劣化試験を避けることが出来るか」、という点です。 リファレンスシステムに登録されているコンポーネントから全てのコンポーネントを選択することが出来れば、UL1446に関しては無試験で製品登録が可能です。 しかしながら、このようなケースはあまり多くないかもしれません。 多くの場合、シールドチューブ試験を行い、自社製品に必要なNIMの追加評価を行ったうえ使用します。
2-1. ワニスの登録が無いシステム、あるいはNIM(Optional)として登録されているシステムを選定する

ワニスがEIMとして登録されているシステムは長期熱劣化試験を実施した際にワニスを用いて評価されたシステムです。 このシステムをリファレンスシステムとした場合、ワニスの使用が必須となります。
材料メーカー様の絶縁システムに、自社で使用するワニスが登録されている場合、リファレンスシステムとして採用する事自体は問題ではありません。 しかしながら、このワニスの使用が必須となるために、現在使用しているワニスを他のワニスに代替することは出来ませんし、将来、ワニスが生産中止となった場合、リファレンスシステムとして使用できないため、製品のUL認証を維持することができなくなる可能性もありますので、このような問題についても考慮して登録を行う必要があります。
ワニスがNIMとして登録されているシステムは、シールドチューブ試験で追加登録されたシステムです。 NIMとして登録されているワニスの使用は任意です。 また、自社で選定したワニスをシールドチューブ試験で追加することが可能ですし、将来的に他のワニスに変更する場合もシールドチューブ試験で評価すれば追加が可能です。 従って、可能であればワニスがNIMとして登録されているシステム、あるいはワニスが登録されていないシステムを選択したほうがワニスを任意に選択できるわけです。
2-2. 設計変更の可否
製品に使用するEIMが登録されているリファレンスシステムを見つけることが出来なかった場合、製品メーカー様は長期熱劣化試験を実施して、自社オリジナルの絶縁システムを取得する必要があります。 しかしながら、材料変更が可能であれば、リファレンスシステムに登録されているEIMからコンポーネントを採用すれば長期熱劣化試験を実施する必要がありません。 また、コンポーネントの変更が出来ない場合であっても、設計変更が可能であれば、長期熱劣化試験を避けることが可能な場合があります。
「高分子材料UL技術講座:UL1446 ②」で説明いたしましたが、コンポーネントは構造によってEIMと判定されたり、NIMと判定される場合があります。 代表的なものに外装ラップがあり、以下の様に定義されています。
コンポーネント | 定義と判定 |
---|---|
外装ラップ (Outer Wrap) |
巻線の最終層の上に配置される材料。
EIM:金属部品との空間が0.8 mm (1/32 インチ) 未満の場合。
NIM:金属部品との空間が 0.8 mm (1/32 インチ) 以上の場合。
|
コンポーネントの定義上、構造によらずEIMと判定されるものもありますが、上記の様に、僅かな空間距離の変更だけで長期熱劣化試験を回避できる場合もあります。
この様に、システムの確立においても検討すべき項目がたくさんあるだけでなく、その利用方法においても様々なノウハウがあります。
これらの解説を行った下記解説書を是非ご参照ください。
◎UL1446の解説本 『UL1446 絶縁システム スーパー解説と和訳』
絶縁システムが適用される基本構造や、適用される試験などについて詳細にわかりやすく解説している日本で唯一のUL1446の解説書です。
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掲載スケジュール
UL746B 長期熱劣化試験
回数 | タイトル | 掲載予定 |
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1回目 | 「RTI(Relative Thermal Index):相対温度インデックスとは?」 | 掲載済 |
2回目 | 「各特性の評価方法」 | 掲載済 |
3回目 | 「RTIの算出方法」 | 掲載済 |
4回目 | 「4温度評価以外の評価方法」 | 掲載済 |
5回目 | 「評価を実施する前の事前準備など」 | 掲載済 |
回数 | タイトル | 掲載予定 |
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1回目 | 「Insulation System:絶縁システムとは?」 | 掲載済 |
2回目 | 「コンポーネント(構成材料)について」 | 掲載済 |
3回目 | 「絶縁システムの評価方法」 | 掲載済 |
4回目 | 「コンポーネントに対する注意点」 | 掲載済 |
5回目 | 「評価を実施する前の事前準備など」 | 掲載済 |
担当:堀水 真
TEL:0551-42-5061 Email:m-horimizu@chemitox.co.jp