鉄道車両分野では、火災発生時の乗客・乗員の安全性確保という観点から、車両に使用する材料に一定の防火性能が要求されます。防火性能要求規格は、日本国内と海外では大きく異なり、また海外でも北米と欧州とでは異なる規格が採用されております。
・欧州の鉄道車両防火規格-EN 45545シリーズ
・北米の鉄道車両防火規格-NFPA 130
・日本の鉄道車両防火規格-国交省省令(鉄道車両用材料燃焼試験 略称:車材燃試)
これ以外の多くの地域では、上記の規格や、欧州各国で従来用いられていた規格(英国のBS 6853やドイツのDIN 5510-2等)がプロジェクトベースで採用されるケースが多く見受けられます。
*:中国はTB/T 3237という独自規格も有しております。また、ロシアでは独自のGOST規格を開発しております。
ケミトックスでは、主として海外の規格について、自社設備、及び世界各国の試験所とネットワークを構築し、各種試験サービスを展開しております。以下に、主要な試験項目の内容を概説いたします。
ページを選択してください ISO 5658-2 火炎伝播試験 ISO 5660-1 発熱性試験(コーンカロリーメーター) ISO 5659-2 発煙性試験 EN 17084 ガス毒性試験(Method 1: FT-IR法) ISO 4589-2 酸素指数試験 NF X 70-100(EN 17084 Method 2 管状炉ガス毒性試験) ISO 11925-2 着火性試験 ISO 9239-1 床材の火炎伝播試験 EN IEC 60695-2-11 グローワイヤー試験 EN IEC 60695-11-10 垂直燃焼試験 EN IEC 60332-1-2 一条ケーブル燃焼試験 EN IEC 60332-3-24 多条ケーブル燃焼試験(垂直トレイ試験) EN 61034-2 3mキューブ発煙性試験 EN 50305 9.2項 ガス毒性試験(管状炉) EN 16989 腰掛燃焼試験 ASTM E162 火炎伝播試験 ASTM E662 発煙性試験 BSS 7239 / SMP-800C ガス毒性試験 ASTM C1166 エラストマーの火炎伝播試験 ASTM E1354 発熱性試験(コーンカロリーメーター) ASTM D648 床材の火炎伝播試験 UL 1685, FT4/IEEE 1202 多条ケーブル燃焼試験(垂直トレイ試験) NFPA 262 スタイナートンネル試験
EN 45545-2で要求される燃焼試験
・ ISO 5658-2 火炎伝播試験
試験概要:
155×800mmの試験片を垂直にセットし、試験片表面に対して15度傾斜させた輻射パネルで加熱しながらパイロットバーナーで試験片端部に接炎します。試験片に着火すると炎は横方向へ伝播しますが、輻射パネルからの輻射熱が減少していくとやがて消火します。消火地点までの燃焼距離から、消火点における臨界熱流束(CFE)を算出します。
対象部位:
車両内装壁、天井、外板、機器筐体、断熱材等、比較的大きな表面積を持つ製品
・ISO 5660-1 発熱性試験(コーンカロリーメーター)
試験概要:
100×100mmの試験片を水平にセットし、25kW/m2 または50kW/m2 の熱源に曝露します。燃焼によって生ずる発熱量が、消費される酸素の質量で考えると物質の種類にかかわらずほぼ一定(酸素1kgあたり13.1MJ)であるという原理を利用し、ダクト内の酸素濃度の変動から発熱速度、発熱量を測定します。
EN 45545-2では、発熱量の経時的変化を捕捉する目的でMARHE(Maximum Average Rate of Heat Emission)というパラメータが導入されます。
対象部位:
車両内装壁、天井、外板、機器筐体、断熱材等、比較的大きな表面積を持つ製品、及び腰掛の構成材料
・ISO 5659-2 発煙性試験
試験概要:
75×75mmの試験片をチャンバー内に水平にセットし、片面を熱流束25kW/m2 または50kW/m2 の熱源に曝露して煙を発生させます。加熱時にバーナーを用いる有炎法(Flaming Mode)と、用いない無炎法(Non-flaming Mode)の2条件の試験があります。
発生した煙を、密閉したチャンバー内に蓄積し、槽内を通る光の透過率減衰度合から煙の量を測定します。結果は、比光学密度(Ds )として表されます。判定には、性能要求に応じて4分後の煙密度(Ds (4))、4分間の煙密度積算値(VOF4 )、10分間の煙密度最大値(Ds max )が用いられます。
対象部位:
使用量が僅かな* 材料を除くほとんどの製品
* 露出面積、可燃物質量が一定未満である等
・EN 17084 ガス毒性試験* (Method 1: FT-IR法)
試験概要:
ISO 5659-2 発煙性試験で発生した煙を採取して、CO、CO2 、HCN、HF、HCl、SO2 、NOx 、HBrの8種のガスをFTIRで定量分析します。
各ガス種について[0.0805×測定値(mg/m3 )/基準濃度(mg/m3 )]という計算を行い、得られた数値を合算することでCITG という指数を算出します。
基準濃度は、「ヒトが曝露されると30分後に死に至る濃度」をもとに設定されています。
ガス種
基準濃度
CO
1380 mg/m3
CO2
72000 mg/m3
HCN
55 mg/m3
HF
25 mg/m3
HCl
75 mg/m3
SO2
262 mg/m3
NOx
38 mg/m3
HBr
99 mg/m3
* 類似の試験方法がEN 45545-2 第1版 Annex Cに記載されていますが、EN45545-2 第2版では採用されます。
対象部位:
ISO 5659-2 発煙性試験が要求されるすべての製品
・ISO 4589-2 酸素指数試験
試験概要:
酸素濃度が調整できる円筒状のガラスカラム内に試験片をセットし、上端に点火します。カラム内の酸素濃度を上下させながら試験片の燃焼時間および燃焼長さが一定以下に収まる最大の酸素濃度を酸素指数(Oxygen Index: OI)として記録します。
材料の性質により試験片の形状は下記6種のタイプから選択します。
タイプ
サイズ(mm)
適用材料
Ⅰ
80-150 x 10 (±0.5) x 4 (±0.25)
成形材料
Ⅱ
80-150 x 10 (±0.5) x 10 (±0.5)
発泡材料
Ⅲ
80-150 x 10 (±0.5) x≦10.5
“受け入れ状態”でのシート材料
Ⅳ
70-150 x 6.5 (±0.5) x 3 (±0.25)
自立成形材料もしくはシート材料、又は電気用途用の代替寸法(タイプⅠの代替)
Ⅴ
140 (+0/-5) x 52 (±0.5) x≦10.5
可とう性のフィルム又はシート
Ⅵ
140-200 x 20 x 0.02-0.1
“受け入れ状態”での薄肉フィルム。既定の棒によって巻き上げることができるフィルムに限定される
対象部位:
比較的表面積が小さく、少量使用の製品
・NF X 70-100(EN 17084 Method 2 管状炉ガス毒性試験)
試験概要:
管状炉内に試験片1gを投入し600℃にて燃焼させます。発生した煙を採取して、8種のガスをそれぞれに定量分析します(イオンクロマトグラフ、分光光度法、NDIR、化学発光法)。各ガス種について[測定値(mg/g)/基準濃度(mg/m3 )]という計算を行い、得られた数値を合算することでCITNLP という指数を算出します。
ガス種
基準濃度
分析手法
CO
1380 mg/m3
非分散赤外吸収法
CO2
72000 mg/m3
非分散赤外吸収法
HCN
55 mg/m3
イオンクロマトグラフ他
HF
25 mg/m3
分光光度法他
HCl
75 mg/m3
イオンクロマトグラフ他
SO2
262 mg/m3
イオンクロマトグラフ
NOx
38 mg/m3
化学発光法
HBr
99 mg/m3
イオンクロマトグラフ他
対象部位:
比較的表面積が小さく、少量使用の製品
・ISO 11925-2 着火性試験
試験概要:
250×90mmの試験片を垂直に設置して、45度傾斜させたバーナーで30秒接炎します。その後30秒(合計60秒)以内に150 mmを超える火炎伝播がないか、及び燃焼落下物の有無を確認します。試験条件は、試験片の下端に接炎する端部着火と、下端から40mmの高さに接炎する表面着火の2条件があります。
対象部位:
照明カバー、エアフィルタ、及びISO 5658-2 火炎伝播試験で一定の溶融滴下を示した製品
・ISO 9239-1 床材の火炎伝播試験
試験概要:
230×1050mmの試験片を試験装置に水平に設置して、30度傾斜させた輻射パネルで加熱しながらパイロットバーナーで試験片端部に接炎します。試験片に着火すると炎は横方向へ伝播しますが、輻射パネルからの輻射熱が減少していくとやがて消火します。消火地点までの燃焼距離から、消火点における臨界熱流束(CHF)を算出します。
対象部位:
車両内装床構造、屋根構造
・EN 60695-2-11 グローワイヤー試験
試験概要:
異常発熱した活電部が高分子材料に接触した場合を想定した試験です。直径4mmのニクロム線を試験片に押し付けて、自己消火の有無を確認します。
EN 45545-2ではニクロム線の温度は850℃です。
対象部位:
プリント配線板
・EN IEC 60695-11-10 垂直燃焼試験
試験概要:
125×13mmの試験片の下端にバーナーによる10秒間接炎を2回繰り返し、燃焼時間や燃焼落下物の有無を見ます。UL 94に基づくV試験(垂直燃焼性試験)と同等の試験です。
EN 45545-2での合格基準はV-0です。
対象部位:
小型電子部品
・EN IEC 60332-1-2 一条ケーブル燃焼試験
試験概要:
600mmのケーブル試験片を45度に傾斜したバーナーで規定時間接炎後、バーナーを外して、上方向と下方向の燃焼の広がりを測定します。
合格基準は、上方への燃焼の拡がりの終点が、上部支持材の下端から50mm以上、下方への燃焼の拡がりが、上部支持材の下端から540mm以内です。
対象部位:
ケーブル
・EN IEC 60332-3-24 / EN 50305 9.1.1項及び9.1.2項 多条ケーブル燃焼試験(垂直トレイ試験)
試験概要:
長さ3.5mないし2.5mのケーブルを一定量束ねた状態で垂直に設置し、規定のバーナーで20分間接炎した後の炭化長を測定します。束ねるケーブルの本数は、対象品の非金属部の容積に応じて決定されます。合格基準は、対象ケーブルの外径に応じて、炭化長 ≤ 2.5m又は ≤ 1.5mとなります。
対象部位:
ケーブル
・EN 61034-2 3mキューブ発煙性試験
試験概要:
縦・横・高さが3mの試験室内に規定本数のケーブルを設置し、規定燃料を用いて加熱します。使用するケーブル本数は、対象品の外径に基づき決定されます。試験時間は40分間です。加熱により発生した煙を室内に充満させ、試験室に備えられた光路の透過率変化に基づき評価します。
対象部位:
ケーブル
・EN 50305 9.2項 ガス毒性試験(管状炉)
試験概要:
管状炉内に試験片約1gを投入し800℃にて分解・燃焼させます。発生した煙を採取して、5種のガスを定量分析します(比色滴定法、分光光度法、NDIR、比色検知管)。各ガス種について[100/サンプル質量×測定値(mg)/基準濃度(mg/m3 )]という計算を行い、得られた数値を合算することでITCという指数を算出します。
ガス種
基準濃度
分析手法
CO
1750 mg/m3
非分散赤外吸収法
CO2
90000 mg/m3
非分散赤外吸収法
HCN
55 mg/m3
分光光度法
SO2
260 mg/m3
比色滴定法他
NOx
90 mg/m3
比色検知管
対象部位:
ケーブル被覆材料
・EN 16989 腰掛燃焼試験*
試験概要:
腰掛全体に対する燃焼試験です。クッション材を用いた腰掛の場合、燃焼試験実施の前に、規定の治具、圧力を用いて張り材に対する切り裂き試験を行い、放火を意図した切り裂きを考慮すべきかを確認します。この試験で一定の切り裂きが発生した場合、燃焼試験において張り材を裂いて拡げた状態と、切り裂きのない状態で試験します。
燃焼試験は、規定の試験室内で,規定のバーナーを用いて腰掛の座面と背面の接合部に接炎を行います。試験炎の公称熱量は15kWです。試験中の平均発熱速度の最大値(MARHE)、総煙生成量(TSP)、及び試験中の炎の高さに基づき判定を行います。
* 類似の試験方法がEN 45545-2 第1版 Annex A, Bに記載されていますが、EN45545-2 第2版では採用されます。
対象部位:
腰掛(全体構造)
NFPA 130で要求される燃焼試験
・ASTM E162 火炎伝播試験
試験概要:
垂直に設置された輻射パネル(670℃)に対して152×457mmの試験片を30度傾斜させて曝露させます。バーナーで試験片上部に着火すると炎は下方へ広がりますが、輻射パネルからの輻射熱が次第に減少し、最終的に消火に至ります。3インチ(76mm)ごとの伝播速度、および装置上部の排気管内部温度上昇値を測定し、火炎伝播指数(Is )を算出します。
対象部位:
内装壁、天井、照明カバー、接着剤、ダクト、機器筐体、断熱材、等
・ASTM E662 発煙性試験
試験概要:
76.2×76.2mmの試験片をチャンバー内に垂直にセットし、片面を熱流束25kW/m2 の熱源に曝露して煙を発生させます。加熱時にバーナーを用いる有炎法(Flaming Mode)と、用いない無炎法(Non-flaming Mode)の2条件で実施します。
発生した煙を、密閉したチャンバー内に蓄積し、槽内を通る光の透過率減衰度合から煙の量を測定します。結果は、比光学密度(Ds )として表されます。判定には、1.5分後及び4分後の煙密度が用いられます。
対象部位:
試験が要求されるほぼすべての製品
・BSS 7239 / SMP-800C ガス毒性試験
試験概要:
ASTM E662発煙性試験で発生した煙を採取し、特定のガスを比色検知管等の分析手法を用いて定量します。BSS 7239ではCO、HCN、HF、HCl、SO2 、NOx の6種、SMP 800-CではCO2 、HBrを加えた8種のガスを定量します。
NFPA 130の規格で要求されている試験ではありませんが、鉄道業界では火炎伝播と発煙性にプラスして毒性評価を求められることが一般的です。閾値は個別の鉄道プロジェクトにより多少相違がありますが、鉄道業界で広く採用されている一般的な閾値があります。
ガス種
BSS 7239
SMP 800-C
CO
3500 ppm
3500 ppm
CO2
–
90000 ppm
HCN
150 ppm
100 ppm
HF
200 ppm
100 ppm
HCl
500 ppm
500 ppm
SO2
100 ppm
100 ppm
NO2
100 ppm
100 ppm
HBr
–
100 ppm
* 閾値は個別の鉄道プロジェクトによって変わる可能性があります
対象部位:
ASTM E662 発煙性試験が要求されるすべての製品
・ASTM C1166 エラストマーの火炎伝播試験
試験概要:
25×460×13mmの試験片を垂直にセットし、試験片の下端にバーナーで接炎します。接炎時間は、試験片が多孔質であれば5分間、密であれば15分間です。接炎終了後に炎が消えたら、水で急冷し、燃焼していない部分の長さを測定することにより燃焼距離を算出します。
NFPA 130では平均火炎伝播距離は4インチ (100mm)以内である必要があります。
対象部位:
エラストマー
・ASTM E1354 発熱性試験(コーンカロリーメーター)
試験概要:
100×100mmの試験片を水平にセットし、50kW/m2 の熱源に曝露します。燃焼によって生ずる発熱量が、消費される酸素の質量で考えると物質の種類にかかわらずほぼ一定(酸素1kgあたり13.1MJ)であるという原理を利用し、ダクト内の酸素濃度の変動から発熱速度、発熱量を測定します。
NFPA 130では、180秒間の平均発熱速度(kw/m2)および煙の比減光面積(m2 /kg)の平均値を算出します。
対象部位:
表面積の小さい少量使用材料
・ASTM D648 床材の火炎伝播試験
試験概要:
約230×1050mmの試験片を試験装置に水平に設置して、30度傾斜させた輻射パネルで加熱しながらパイロットバーナーで試験片端部に接炎します。試験片に着火すると炎は横方向へ伝播しますが、輻射パネルからの輻射熱が減少していくとやがて消火します。消火地点までの燃焼距離から、消火点における臨界放射束(CRF)を算出します。
対象部位:
車両床仕上げ材
・UL 1685, FT4/IEEE 1202 多条ケーブル燃焼試験(垂直トレイ試験)
試験概要:
ケーブルを一定量束ねた状態で垂直に設置し、規定のバーナーで20分間接炎した後の炭化長、総煙生成量、及び試験中のピーク煙生成率を測定します。束ねるケーブルの本数は、対象品の外径に応じて決定されます。
対象部位:
ケーブル
・NFPA 262 スタイナートンネル試験
試験概要:
ケーブルを規定のトンネル状試験装置内のトレイに敷き詰め、一定方向に風を送りながら上流側ケーブル端部に二口バーナーで接炎します。試験時間は20分間です。試験中の火炎伝播距離、及び煙密度に基づき判定します。
対象部位:
ケーブル
お問い合わせ先
担当:藤岡 博明
TEL: 03-3727-7111