プラスチック・PWB評価試験

実験シリーズ-ハテナを明かす!! | 引張強さ(TS)試験 –引張速度が結果に与える影響

はじめに
2回目を迎えた実験シリーズ-ハテナを明かす!!ですが、今回は引張強さ試験(Tensile Strength)に注目して実験を行いました。引張強さは静的荷重に対する材料の機械強度を表す特性の一つであり、製品の外部筐体や荷重を受ける部位に使用される材料の選定上、非常に重要な特性です。
引張強さ試験とは、試験片が破断するまで一定速度の張力をかけ、その最大引張応力を求める試験です。引張強さは得られた最大引張応力を試験片の断面積で除したものを指します。 

σ=P/A  σ:引張強さ
P:最大引張応力
A:試験片断面積

試験規格 試験対象
ASTM D412
JIS K 6251
ゴム
エラストマー
ASTM D638
JIS K 7161-2
ISO 527-2
型成形
押出成形
注型プラスチック
ASTM D882
JIS K 7127
ISO 527-3
フィルム
シート
今回は同一の形状の試験片を用いて異なる引張速度で試験を行い、どのような違いが出るかを実験しました。適用規格はASTM D638に基づき、試験片はType Ⅰを用いました。今回は引張速度を5mm/min.、50mm/min.、500mm/min.の3種の速度で試験を行いました。
今回の試験条件(ASTM D638 TypeⅠ)
項目 内容
引張速度  5mm/min, 50mm/min, 500mm/min.
グリップスパン 115mm
試験片厚さ 3.0mm
試験片材質 PC, ABS, PP
結果
各試験片の応力ひずみ曲線は以下の通りです。
各試験片の応力(N)-ひずみ(mm)曲線
 
PC、ABS、PPのいずれも引張速度が速い場合の方が、引張強さが強くなりました。
結果のまとめ
引張速度の違いにより引張強さが異なった理由について考えてみます。
高分子材料は粘弾性と呼ばれる粘性の特徴と弾性の特徴を両方持った特性があります。高分子材料に限らずすべての物質はこの粘弾性の特性を持ちますが、特に高分子材料に顕著にみられる特性です。弾性、粘性のそれぞれの特徴は下記の通りです。
弾性 粘性
フックの法則に基づく、伸びと荷重の関係で比例関係が成り立ちます。
荷重を取り除くと伸びは元に戻ります。
バネ 

伸びと荷重は比例関係

ダッシュポットと呼ばれるモデルで説明されます。ゆっくりであれば小さい荷重でも変位し、速く動かす場合は、大きな荷重が必要となります。良く、容器の中のはちみつをスプーンでかき混ぜる動きに例えられます。荷重を取り除いても伸びは元に戻りません。
ダッシュポット 

液体が満たされたピストンとロッドによる構造

今回の測定データの応力-ひずみ曲線より、各引張速度ともに弾性領域を超えるとひずみが大きくなり、荷重の増加が緩やかになっていることが確認できます。これは応力緩和が発生していると考えられます。応力緩和とはバネとダッシュポットを組み合わせた下記のモデルで説明されます。
荷重前 荷重開始時 時間経過時
荷重がかかっていない状態
荷重初期はバネだけが急速に縮む
時間の経過とともにダッシュポットが押し込まれ、バネが元の長さに戻っていく。このため荷重が緩和される。
右記はPCを測定した際の応力-ひずみ曲線図の降伏点付近の拡大図です。引張速度が遅い方が、低い応力で弾性域(グラフ上の直線域)が終わり、ひずみが大きくなっているのが判ります。一方、ひずみ始めてから降伏点を迎えるまでに要する応力は引張速度依存が無く、ほぼ同一となっているのが判ります。これらより同一試験片において引張速度の違いにより引張強さが変化するのは、弾性限界から降伏点までの応力に大きな相違が無いものの、引張速度に応じて応力緩和(ひずみ)が開始する荷重(応力)が変化するためであると考えられます。ABSおよびPPにおいても同様の傾向が確認できます。
応力-ひずみ曲線(PC)の降伏点付近の拡大図
注:上記は今回の評価に用いた試験片より得られた結果であり、異なる材料、条件の場合、結果が異なる場合があります。
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担当:堀水 真
TEL:0551-42-5061
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