1.長期熱劣化試験が要求される組成変更
添加材 |
追加 |
削除 |
入れ替え |
レベルの変更 |
|||||
|
総重量に占める% |
UL746A 表9.2 |
総重量に占める% |
UL746A 表9.2 |
総重量に占める% |
UL746A 表9.2 |
総重量に占める% |
増減量の% |
UL746A表9.2 |
顔料 (無機) |
≦5 |
A,E |
Any |
A,E |
Any |
A |
≦5 |
– |
A,E |
>5 |
A,D1,E |
>5 |
– |
A,D1,E |
|||||
硬化剤 |
Any |
C,D2,E |
Any |
C,D2,E |
Any |
C,D2,E |
– |
≦30 |
B |
>30 |
C,D2,,E |
プログラムコード |
要求試験 |
O |
試験要求無し |
A |
すべての燃焼クラスでの最小厚さを用いて燃焼性試験 |
B |
上記A+HWI、CTI、HDTまたはビカットまたはボールプレッシャー(熱可塑性のみ) |
C |
全ての重要な特性についてサイド・バイ・サイドで試験 |
D1、D2、D4 |
UL746B 長期熱劣化試験 |
E |
UL746C UVおよび水浸漬試験(取得している場合のみ) |
また、硬化剤を追加する場合、追加量の割合によらずD2:2温度評価あるいは、2000時間評価、が要求されます。
このように、組成変更の内容および変更量に基づき、D1:1温度評価、D2:2温度評価あるいは2000時間評価、D4:4温度評価が要求されます。D4:4温度評価が要求される組成変更では簡略的な熱劣化試験を実施することが出来ません。
2.D1:1温度評価あるいはD2:2温度評価
UL746A 表9.1に基づきD1:1温度評価あるいはD2:2温度評価が要求された場合、4温度評価を行う必要がありません。組成変更の元となった材料を長期熱劣化試験した際に用いた4つの温度の中間の1つあるいは2つの温度だけ用いて長期熱劣化試験を実施することが出来ます。この方法は1温度評価あるいは2温度評価と呼ばれています。評価には元の組成のサンプル(コントロール)と新しい組成のサンプル(キャンディデート)を用いて評価を行います。これらの評価の場合、5000時間以上の寿命を得る必要が無いため、4温度を用いた評価よりも短期間で評価することが出来ます。
例としてD2:2温度評価として以下のデータが得られた場合につて説明いたします。
表-3コントロール(RTI:140℃)とキャンディデートの寿命の例
エージング温度 |
190℃ |
180℃ |
170℃ |
160℃ |
キャンディデートの寿命 |
– |
1000時間 |
2800時間 |
– |
コントロールの寿命 |
– |
1800時間 |
3700時間 |
– |
アレニウスグラフ上に、それぞれ得られた寿命をプロットします。
図-1 計算上のRTIの算出方法
傾きはコントロールを評価した際に得られたアレニウス式の傾きを用いて、それぞれ2つの温度の中点を通る直線を引きます。それぞれのグラフから得られたアレニウス式を用いてコントロールが持つRTIの相間時間を用いて計算上のRTIを算出します。今回のデータからはコントロール:142℃、キャンディデート139℃が得られました。
それぞれ得られた計算上のRTIの差が±5℃以内に入ればコントロールと同じRTIとして認証されます。 今回、例に用いたデータであれば、コントロールと同じ140℃として認証されます。
また、-5℃から-10℃以内であればコントロールよりも10℃低いRTIが認証されます。上記の範囲を外れた場合は、RTIは認証されません。この場合、評価温度を追加して通常の4温度評価へ移行することが出来ます。

図4 認定RTIの決定ルール
D1:1温度評価の場合、得られた寿命を通る様に、コントロールを評価した際に得られたアレニウス式の傾きを用いて直線を引き、それぞれのグラフから得られたアレニウス式を用いてコントロールが持つRTIの相間時間を用いて計算上のRTIを算出します。それぞれ得られた計算上のRTIの差が±5℃以内に入ればコントロールと同じRTIとして認証される点は同じですが、±5℃を超えた場合、評価が不成立となります。
この様に1温度評価はリスクが高いため、あまり用いられることはありません。
3.D2:2000時間評価
UL746A 表9.1に基づき、D2が該当した場合であっても、お客様より組成変更の内容が熱的特性に関して影響がないことをULへ示すことが出来れば、先ほどの2温度評価を回避することが出来る可能性があります。この際行われる評価は1温度を用いて2000時間以上のエージングを行います。取得するデータは初期値と2000時間以上のエージングを実施したサンプルの測定値だけです。長期熱劣化試験の様に寿命を求めるためにたくさんのサンプルを準備して評価する必要が無いため、測定費用を抑えることが出来ます。
この簡略的な評価を実施するそのためには、お客様から熱的特性に関して影響がないことを示すデータをULへ提出する必要があります。UL746Bで要求されている試験例として以下のものがあります。 下記評価以外の評価方法で熱的特性に関して影響がないことを示す資料があれば、ULとの協議に使用することが可能です。
・窒素雰囲気下および大気雰囲気下での熱重量分析(TGA)
・動的粘弾性分析(DMA)
・示差走査熱量分析(DSC)
・圧力示差走査熱量分析(Pressure DSC)
2000時間評価に用いる温度の選定は組成変更の元となる材料の長期熱劣化試験のデータを基に決定します。エージング条件および判定基準は以下となります。
・2000時間のエージング後のサンプルの強度保持率が初期値の35%~75%となる温度を用いてエージングを実施する。
・測定数はコントロール、キャンディデートともn=30。
・キャンディデートの強度保持率がコントロールの保持率の±5%以内、あるいはT検定を実施して有意差が無い(P値>0.05)場合コントロールと同じRTIが認証される。
簡略評価であるD1:1温度評価や、D2:2温度エージングあるいは2000時間評価は、組成変更の前後の材料を比較して差異が無いことを確認する方法です。たとえ組成変更後の結果が良い場合であっても組成変更前の材料より高いRTIを取得することは出来ません。高いRTIを取得することを希望するのであれば通常の4温度を用いた長期熱劣化試験が必要となります。
次回は「評価を実施する前の事前準備など」について掲載します。
◎UL746Bに基づく長期熱劣化試験解説書
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基本となる4ポイント評価をはじめ評価方法の詳細や、弊社での評価時の苦労話も含めた解説書を発行しております。 価格およびご購入方法についてはこちらのページを参照ください。 |
掲載スケジュール
UL746B 長期熱劣化試験
回数 | タイトル | 掲載予定 |
---|---|---|
1回目 | 「RTI(Relative Thermal Index):相対温度インデックスとは?」 | 掲載済 |
2回目 | 「各特性の評価方法」 | 掲載済 |
3回目 | 「RTIの算出方法」 | 掲載済 |
4回目 | 「4温度評価以外の評価方法」 | 掲載済 |
5回目 | 「評価を実施する前の事前準備など」 | 掲載済 |
回数 | タイトル | 掲載予定 |
---|---|---|
1回目 | 「Insulation System:絶縁システムとは?」 | 掲載済 |
2回目 | 「コンポーネント(構成材料)について」 | 掲載済 |
3回目 | 「絶縁システムの評価方法」 | 掲載済 |
4回目 | 「コンポーネントに対する注意点」 | 掲載済 |
5回目 | 「評価を実施する前の事前準備など」 | 2025-05 |
担当:堀水 真
TEL:0551-42-5061