今回は、エージングにより得られた寿命を用いて、どのようにRTIを算出するのかについて説明いたします。 UL746Bではコントロールと呼ばれる材料とともに評価を行うことが一般的です。
1.コントロールとキャンディデート
「コントロール」とは、過去に長期熱劣化試験を実施してRTIを取得した実績のある材料の中から選定されます。 これに対してこれから評価を実施する材料のことを「キャンディデート」と呼びます。 これらの材料を同時にエージングして、得られたデータを比較してRTIを算出します。これが、RTIの表すRelativeと言われるゆえんです。
オーブン内に、同時に投入する
コントロール材料はどのような材料を用いても良いわけではありません。 下記が、コントロール材料の要求事項です。
- 同一化学名称である事。
- キャンディデートと類似した厚みでRTIを取得していること。
- キャンディデートの希望RTIと近いRTIを取得していること
- 過去に4温度を用いて、最低温度で5000時間以上のエージング結果を有するもの。
従って、イエローカード等に一般温度インデックスが記載されているからと言って、必ずしも上記すべての条件を満たしているわけではありません。コントロール材料を選択する際には、ULの担当者と綿密な打ち合わせを行ったうえで決定する必要があります。
2.RTIの算出方法
では、エージングを行って得られたデータからどのように温度インデックスを決めていくのかを見ていきましょう。
例として以下のデータが得られた場合について説明します。
表-1 コントロール及びキャンディデートの寿命の例
これらのデータの評価温度と寿命の関係を横軸に絶対温度の逆数、縦軸に時間の対数としたグラフにプロットし、アレニウス式を算出します。アレニウス式とは化学反応の温度と、速度の関係を示した式です。温度や、材料劣化を示す活性化エネルギーなどに依存して表されます。
アレニウス式は下記の計算の通り一次式となります。
図-1 コントロール及びキャンディデートのアレニウスグラフ |
k=A*exp(-Ea/RT) 上記速度定数:kの式の自然対数をとると、 Ink=InA+In{exp(-Ea/RT)} =InA–Ea/RT lnk=Y、lnA=B、-Ea/R=b、1/T=Xとすれば以下の様に一次式となる。 Y=B+b*X ここに、 k:速度定数 A,B,b,:定数 Ea:活性化エネルギー R:気体定数 T:絶対温度 [K]: =273.16 + t [℃] t:エージング温度(℃) |
先ず、コントロールの相間時間を求めます。相間時間とはコントロールが持つ認定RTIとなる時間のことを指します。コントロールのRTIが140℃だった場合、コントロールのアレニウスグラフと140℃の交点を求め、その時の時間を求めます。今回用いたコントロールの140℃における相間時間は41010時間という事になります。 | 図-2 コントロールのRTIより相間時間を求める方法 |
次に、相間時間である41010時間とキャンディデートのアレニウスグラフとの交点を求め、その交点における温度を算出します。今回説明に用いたデータから、132.7℃が得られました。このようにコントロールの相間時間におけるキャンディデートの温度のことを計算上のRTIと言います | 図-3 キャンディデートの計算上のRTIの算出方法 |
計算上のRTIは以下のルールに基づき、段階的に切り捨ててUL認証のRTIとなります。
- 130℃までは5℃間隔
- 130℃~180℃までは10℃間隔 (例外:155℃)
- 180℃を超えると20℃間隔
今回得られた132.7℃は130℃~180℃の範囲ですので、認定RTIは130℃となります。
次回は「4温度評価以外の評価方法」について掲載します。
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今後の掲載スケジュール
回数 | タイトル | 掲載予定 |
1回目 | 「RTI(Relative Thermal Index):相対温度インデックスとは?」 | 掲載済 |
2回目 | 「各特性の評価方法」 | 掲載済 |
3回目 | 「RTIの算出方法」 | 掲載済 |
4回目 | 「4温度評価以外の評価方法」 | 2023-12 |
5回目 | 「評価を実施する前の事前準備など」 | 2024-02 |
回数 | タイトル | 掲載予定 |
1回目 | 「Insulation System:絶縁システムとは?」 | 掲載済 |
2回目 | 「コンポーネント(構成材料)について」 | 掲載済 |
3回目 | 「絶縁システムの評価方法」 | 2023-11 |
4回目 | 「コンポーネントに対する注意点」 | 2024-01 |
5回目 | 「評価を実施する前の事前準備など」 | 2024-03 |