プラスチック材料評価試験

高分子材料UL技術講座 | UL746B(IEC60216)長期熱劣化試験(RTIおよびTI)②

今回はRTIを取得するためにどのような試験を行う必要があるのかについて説明いたします。

1.サンプルの熱劣化試験

材料のRTIを算出するためには試験片をオーブンに投入して試験片を熱により劣化させます。 これをエージングと呼んでいます。 最初に40本の試験片をオーブンに投入して、定期的に試験片を5枚ずつ取り出して初期値の半減期を求めます。 この初期値の半減期のことを寿命と呼んでいます。 UL746BではRTIの算出のために最低、4つの温度を用いてエージングを行いそれぞれの温度における寿命を求めることが要求されています。


2.エージング温度の決め方

エージングに用いる温度はどのような温度を用いても良いわけではありません。 UL746Bの基本的な要求事項には以下のものがあります。

  • エージング温度の間隔は10℃以上開けなければならい。
  • 最高エージング温度における寿命は500時間以上であること。
  • 最低エージング温度における寿命は5000時間以上であること。
  • エージングに用いる温度は最低4つの温度が必要。
エージングに使用するオーブン

この中で特に重要なのが、最高エージング温度および最低エージング温度における寿命の要求です。 表‐1はエージングの基本的な要求事項を満足している例です。 最高エージング温度である190℃で600時間の寿命が得られており、規格要求である500時間以上の寿命が得られていることが判ります。 また、最低エージング温度である160℃では6000時間の寿命が得られており、こちらも規格要求である5000時間以上の寿命が得られています。

表-1 エージングの基本的な要求事項を満足している例
エージング温度
200℃ 190℃ 180℃ 170℃ 160℃ 150℃
寿命(時間) 600 1500 3500 6000

エージング温度に対する寿命は評価する材料により異なります。 このため、規格要求である500時間以上の寿命が得られる温度を事前に確認することが重要となります。 評価温度の選定を誤ってしまうと、規格要求を満足せずに評価が成り立たないばかりか、せっかく準備した多数の試験片が無駄になってしまいます。 このため、最高エージング温度を選定するための事前評価を行うことをお勧めしています。


3.各特性の評価方法

長期熱劣化試験は大きく分けると主要特性である電気特性および機械特性と、二次特性である燃焼性に分けることが出来ます。 主要特性とは実際に4温度以上のエージングを行い、各温度の寿命を求め、規格に基づくRTIを算出する特性のことを指します。 二次特性である燃焼性定格はRTIを算出する必要がありません。 主要特性の評価で得られた寿命より長時間のエージングを行い、元々得られている燃焼性定格を維持していることが求められます。 表-1のデータを基に考えると、主要特性において190℃で600時間の寿命が得られています。 このため、二次特性である燃焼試験は、試験片に対して600時間以上のエージングを行い、元々得られている燃焼性定格を維持する必要があります。 評価する温度に規定はありませんが、一般的に最高エージング温度や2番目に高いエージング温度が用いられます。

二次特性である燃焼性は、V-2以上の燃焼性定格をもつ材料に関して要求されます。 つまり燃焼性定格がHBの材料は二次特性として燃焼性試験を実施する要求がありません。

表-2 UL認定例
Polycarbonate (PC)
材料名
最小厚さ
mm
燃焼性
定格
RTI
電気特性
機械特性
衝撃あり
衝撃無し
CTX123 ALL 0.75
V-1
120
120
120
1.5
V-1
120
120
120
3.0
V-1
120
120
120
燃焼定格がV-2以上
であるため評価が必要
電気特性、機械特性(衝撃あり、衝撃無し)
で評価したRTIが記載される

4.試験規格

UL746Bでは燃焼性の評価はUL94、その他の特性の評価はUL746Aを参照するように指示されています。 UL746Aの中ではそれぞれの特性はASTMなどの試験手順を参照することが指定されています。 RTIを取得する必要がある特性に対して、これらの試験規格の中から適用規格を選定し、試験片を用意します。

表-3 UL746Bで要求される特性試験および参照規格
二次特性
一次特性
燃焼性
電気特性
機械特性
燃焼性試験
→UL94
絶縁燃焼性試験
→ASTM D149
衝撃あり
衝撃無し
引張衝撃試験
→ASTM D1822
又は
引張強さ試験
→ASTM D638(1mm以上)
 ASTM D882(1mm未満)
又は
アイゾッド衝撃試験
→ASTM E256
又は
曲げ強さ試験
→ASTM E490
シャルピー衝撃試験
→ASTM D3110
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今後の掲載スケジュール

UL746B 長期熱劣化試験
回数 タイトル 掲載予定
1回目 「RTI(Relative Thermal Index):相対温度インデックスとは?」 掲載済
2回目 「各特性の評価方法」 掲載済
3回目 「RTIの算出方法」 掲載済
4回目 「4温度評価以外の評価方法」 2023-12
5回目 「評価を実施する前の事前準備など」 2024-02
UL1446 絶縁システムの評価
回数 タイトル 掲載予定
1回目 「Insulation System:絶縁システムとは?」 掲載済
2回目 「コンポーネント(構成材料)について」 掲載済
3回目 「絶縁システムの評価方法」 2023-11
4回目 「コンポーネントに対する注意点」 2024-01
5回目 「評価を実施する前の事前準備など」 2024-03
お問い合わせ先 担当:堀水 真 TEL:0551-42-5061 FAX:0551-20-6335

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