過充電試験のご紹介
リチウムイオン電池を誤って過充電してしまうことによる発火・破裂の事故が多く報告されています。これはコネクタの形状が類似している非純正品の充電器を誤使用してしまい、そのバッテリーの定格よりも高い電圧・電流で充電してしまう人為的なミスと、さらに適切な保護機能が作動しなかったり、または保護機能がなかったなどが重なることで過充電状態となり、熱暴走を起こし発火・破裂に至ったと分析されます。過充電試験では各単セルや電池ブロックが、このような充電電圧以上の高電圧に対してどのような挙動を見せるか、その安全性を試験します。
◆市販バッテリーに対する過充電試験の例を公開
人気の高い家庭用電化製品ほど純正バッテリー以外に、互換バッテリーが多数販売されています。今回はある人気家電の純正品と安価な互換品2種類に対して過充電試験を行い、その安全性を比較しました。まずは充放電性能についてですが、すべてのバッテリーがカタログ値に対して100%の放電容量があり、十分な性能があることが確認できました。また、今回の過充電試験はUN38.3の条件を参照し、SOC 100%から開始し、2It Aの電流値で試験を開始しました。
【試験条件】 (UN38.3) 温度:20℃±5℃ 充電状態:SOC 100% 充電電流:2It A 最大電圧:推奨充電電圧の1.2倍 【結果】 3検体すべてで電流値2It Aでは保護機能が作動し、充電不可能であった。従って、発火、破裂は無く合格であった。以上のことから、この家電の純正品、互換性バッテリーはいずれも規格で要求される過充電試験においては問題なく合格であることがわかりました。 |
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◆条件を変更した追加試験について
そこでさらに厳しい条件で試験を行うため、まずは電流を徐々に下げて充電可能電流を調査しました。結果、3種類とも規格規定の2It Aから下記グラフ内の電流値でそれぞれ充電可能となりました。このことから、SOC 100%かつ保護機能が正常であっても、通常の充電電流、あるいはそれより少し高い程度の電流値では過充電状態になってしまうことがわかりました。その後の挙動は下記に示すグラフの通りです。まず純正品は保護機能により推奨充電電圧プラス1V弱で充電カットオフとなり非常に安全性が高いことがわかりました。温度上昇としても5℃程度であるため、家電として安心な範囲であると思います。
互換品1は挙動こそ純正品に似ていますが、充電カットオフ電圧が高く、プラス10℃以上の温度上昇がありました。互換品2の保護機能は充電カットオフが高いようで、最大電圧となる推奨充電電圧の1.2倍付近でカットオフとなるまで約20分間も充電が可能となり、温度も外装測定で45℃まで上昇しました。
以上のことから、純正品・互換品1と互換品2とでは、保護機能に差があるようですが、今回の純正品、互換品バッテリーは保護機能を回避するような追試試験においてもすべて安全であることがわかりました。そして、上記のような追加試験条件にさらすことにより、規格規定条件では見つけられなかった各製品間の違いを見つけることができ、より厳しい条件下で安全性を比較できました。

試験名 | 規格番号 | 条件 |
リチウムイオン電池 過充電試験 (Overcharge test) |
JIS C8712 | SOC 0% 最大電流の2.5倍 定格容量の250%まで通電 |
JIS C8714 | SOC 100% 上限充電電圧を超える電圧を印加し 充電が停止するときの電圧を測定する |
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JIS C8715-2 | SOC 0% 最大充電電流 充電最大電圧まで |
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JIS C62133-2 | SOC 0% 2.0/t Aで充電する a)単一の電池の場合は上限充電電圧の1.4倍 b)直列した電池の場合は上限充電電圧に直列数を乗じて、その1.2倍の値まで |
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UN38.3 | SOC 100% 最大連続充電電流の2倍で充電する a)充電電圧が18V以下の場合は最大充電電圧の2倍か22Vのいずれか小さい電圧まで。 b)18Vを超える場合は最大充電厚の1.2倍まで |
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IEC62660-2 | SOC 100% 製造業者が指定する電流値で充電し、製造業者と合意した電圧に達するまで |
【過充電試験装置スペック】 最大電流:30A 構 成:安全試験槽、バイポーラ電源、データロガー、クランププローブ、K熱電対、4Kカメラ |
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